第23回長崎県精神科リハビリテーション研究会が、平成17年6月11日に有明町総合文化会館「グリーンウェーブ」で開催されました。
そのなかの第1分科会で当院音楽療法スタッフもシンポジストとして参加しましたので、その内容を掲載いたします。

演 題 当院でみられた音楽療法の効果 〜KJ法およびケースビネー検討による経験科学的視点からみた考察〜
演 者 音楽療法担当者
司会者 高城 昭紀(高城病院 Dr)
助言者 熊本 庄二郎(杵築オレンジ病院 Dr)

スライド
口頭説明
当院でみられた音楽療法の効果
〜KJ法およびケースビネー検討による経験科学的視点からみた考察〜

★発表者★
音楽療法担当者 高城 昭紀(MD)

★協力スタッフ★
リハビリテーション科 看護部
統括事務部 医療情報管理科
〜KJ法およびケースビネー検討による経験科学的視点からみた考察〜
はじめに

経験科学的視点からの考察
 *KJ法
 *ケースビネー

EBM(Evidence Based Medicine)
治療に対する科学的な裏付けとして求められているが、音楽療法の効果は測りがたい

NBM(Narrative Based Medicine)
個人個人が独立した存在であるという概念に基づき、物語・記述的な根拠に重点を置き、個々の患者さんの社会背景やこれまでの歴史に寄り添った判断というものを大切にしたい
当院は病床数192床の精神科単科の病院です。音楽療法の活動は2000年11月より行っています。年齢・性別・疾患・重症度など日常生活レベルが異なる様々な対象者に対し、約4年半の活動を経てきました。そのなかで、個々の患者さんの音楽療法での活動記録を194例のケースビネーとして記録してきております。
今回の発表を機会に、音楽療法に携わってきたスタッフと共同して、音楽療法に期待される効果は何かを探るため、KJ法を用いて分析してみました。またケースビネー検討として、KJ法で得られた所見が参加者にどのような頻度でみられるのかを量的に捉えてみました。
KJ法とケースビネーを用いた理由は、近年、治療に対する科学的な裏付けであるEBM(Evidence Based Medicine)が求められています。しかし、音楽療法による治療的な効果というものは数量的なデータだけでは測りがたく、本来人間というのは普遍的なものではなくて個人個人が独立した存在であるという概念に基づき、NBM(Narrative Based Medicine)〜物語・記述的な根拠〜に重点を置き、個々の患者さんの社会背景やこれまでの歴史に寄り添った判断というものを大切にしたいと考えたからです。
そして、経験によって分かった確かな事実を土台にして成り立つものであるという経験科学に着目し、今回の研究結果について経験科学的視点からみた考察をいくつか述べてみたいと思います。
当院での音楽療法の取り組み
まず、当院での音楽療法の取り組みについてご紹介したいと思います。
開催概要(2001年1月〜2005年5月)
開催回数 279回
延べ参加人数 6474名
対象者 希望する人は誰でも
頻度・時間 月4〜6回 約1時間
使用楽器 鈴、タンバリンなど 約20種類から選んでもらう
参加人数 平均:23.2名
最高:43名 最低:10名
スタッフ 4〜8名程度
活動には、入院患者さんの中で希望される方は誰でも参加することができます。
月に4〜6回、1回あたり約1時間行っています。
使用楽器は、鈴・タンバリンなど約20種類あり、好きな物を選んでもらっています。
参加者数は平均23.2名で、スタッフは4〜8名程度携わります。
場所は対象者に応じて、コミュニティーホールまたは病棟デイルームで行います。
活動の様子
歌唱 歌体操
次の写真は、1階コミュニティーホールでの活動の写真です。
東側に有明海を臨み、明るく開放感があります。
活動の様子
次は病棟のデイルームでの活動の様子です。
車椅子などで1階のコミュニティーホールまで行くのが億劫な人、普段生活している病棟の雰囲気であれば落ち着く人等が参加します。
デイルームからも東側に有明海、西側には今なお溶岩ドームがある普賢岳を眺めることができます。
なるべく景色や天気などが分かるように、椅子の配置や並びに工夫しています。

次に以前、慰問に来られたゲストの方に、お返し演奏で発表した合唱の様子をお聞き下さい。
(ホームページ上では割愛します)

次に、参加されている方について統計を出してみました。
参加者の男女比率です。
外側の円は音楽参加者、内側の円は入院患者さんの男女比率です。入院患者さんに比べ、音楽には女性の参加者の割合がやや多いことが分かります。
参加者の年齢をプロットしました。
平均は59.7才とやや高齢ですが、19才から91才まで対象を選ばず幅広い年齢層の方が参加されていることが分かると思います。
参加者の主病名をICD-10で分類しました。
統合失調症の方が半数以上を占めていますが、この割合は当院の入院患者さんの疾病分類とほぼ同様です。こちらも、対象を選ばずいろんな症状・状態の方が参加されていることが分かると思います。
一人あたりの参加回数を出してみました。
横軸は参加した回数で、縦軸はその人数です。1回来ただけで続かなかった人も17%いますが、最も多い人は240回も参加されています。平均すると、一人当たりの参加回数は33.4回です。
プログラム
@始まりの挨拶(歳時記)
Aウォーミングアップ(ストレッチ・歌体操・ゲーム・手遊びなど)
B今月の歌(リクエスト曲や季節にちなんだ歌)
C音楽鑑賞(クラシックなどを聴く、歌番組の映像の鑑賞)
D終わりの挨拶
次に、プログラムですが、
まず@始まりの挨拶(歳時記)では、〜今日は何の日?〜の話をし、Aウォーミングアップではストレッチ・歌体操・ゲーム・手遊びなどを行い、B今月の歌では、リクエストや季節にちなんだ歌を歌っています。C音楽鑑賞では、クラシックなどを聴いたり、歌番組の映像を見たりしています。最後はD終わりの挨拶 で終了となります。

次にケースビネーとKJ法による検討とその結果について述べてみたいと思います。
ケースビネーとKJ法による
検討とその結果
<対象者>
2001年1月から2005年5月までの計279回の活動に、1回でも参加した入院患者194名

<検討者>
主に携わっているスタッフ10名(MT・OT・CP・Ns等)
対象者は、
2001年1月から2005年5月までの計279回の活動に、1回でも参加した入院患者さん194名です。

検討者は、
主に携わっているスタッフ(音楽療法担当、作業療法士、心理士、看護師など)10名で検討しました。
検討@
音楽療法から見たケースビネーによる検討


Case vignette : 小さな物語
検討の1つ目はケースビネーです。
毎回、活動終了後の反省会で一人一人の状態や変化についてスタッフで話し合い、記録しています。
ケースビネーとは、一人一人の参加者について、その記録をもとに改めて音楽療法の経過を短い症例報告としてまとめたものです。
調査対象としてあげたケースビネーは194例です。

ここで、その一例をあげてみます。
ケースビネーの1例

「トラブルメーカーさんが・・・ 」

統合失調症の60代女性のケース
タイトルは「トラブルメーカーさんが・・・」

★60代:女性(統合失調症)Aさんのケースビネーです。
*性格
短所:過干渉 被害的 トラブルメーカー
長所:几帳面 ADLが高い 献身的で面倒見がよい

*音楽に対して
音楽が好きで、毎回参加
「歌うことで気分転換になる」

Bさんとの出会い
 →陽性症状の激しいBさんのお世話役に
Aさんは統合失調症で30年近く入院されています。病状は妄想が中心で、「誰々が何々してくる」と物事を被害的に受け取りやすく、相手に文句を言ったり、スタッフに長々と苦情を訴えたりします。そのため他の患者さんともしばしば言い争いになり、病棟ではトラブルメーカー的な面があります。几帳面でADL能力が高く、身の回りのことは何でもきちんとこなされます。自分のことだけでなく、スタッフが掃除などをしているとよく手伝ってくれる献身的で面倒見の良い面もあります。
音楽には開設当初から参加されており、面会などがない限り、ほぼ毎回参加されます。病棟に帰ってからも時々歌詞カードを見ながら歌っておられ、「歌うことで気分転換になる」と話されます。音楽の知識も比較的豊かで、自分なりに音楽を楽しむことができているようです。
この音楽の時間に、一時期Bさんという統合失調症の方が参加されていました。Bさんは陽性症状が激しく、時々安静のため保護室に入ることが必要な方でした。音楽の時間も落ち着きが無く、全ての曲に「歌わせて下さい!」とみんなの前に出てマイクで歌うことを要求されていました。「マイクは順番だから」と説明しても聞き入れず、「歌わせて下さい!」と何十回でも繰り返しては泣いたり喚いたりの大騒ぎで、看護スタッフが付きっきりでも、なかなか落ち着くことがありませんでした。そのBさんに対し、Aさんは病棟でも音楽の時間でもお世話役に徹するようになりました。
懇々と話し相手になり、ずっと手を握り、慰めたりなだめすかしたりと、1対1で向き合い、とても甲斐甲斐しくお世話をされていました。やがて音楽の時間、Bさんは決まってAさんの隣に座るようになりました。マイクをもらえないと泣き喚いてスタッフが説明しても納得されないのは相変わらずですが、Aさんになだめられると不思議と落ち着いて音楽に参加できるようになっていきました。
*Aさんの変化とその考察
「過干渉」が「お世話役」に好転

BさんにとってAさんは・・・
 甘えられ信頼できる、向き合ってくれる仲間

AさんにとってBさんは・・・
 自分を必要としてくれる仲間
 献身性、面倒見の良さが満たされる喜び
Aさんは他人に対して過干渉なためにトラブルを起こすことが多かったのですが、Bさんとの関係では、その「過干渉」さが「お世話役」に好転したようでした。
BさんにとってAさんは「甘えられ信頼できる、向き合ってくれる仲間」であり、
また本来献身的で面倒見の良いAさんにとっては、Bさんが自分を必要としてくれることは喜びであり満足であるように見えました。
*現在
・「音楽の場」での自分の居場所・役割を見つけ、新しいメンバーの面倒を見る
・音楽の時間は訴えやトラブルが見られない
     ↑
・Bさんとの関係を経て「良いコミュニケーション」を学習
・音楽が「趣味」で、それを楽しんでいる間は病気の面ではなく健康的な面が前面に出ている
現在、Bさんは音楽には参加していませんが、Bさんとの関係により、Aさんは「音楽の場」での自分の居場所・役割を見つけたようです。新しいメンバーが参加すると、色々と教えてあげたり楽譜を見せてあげたり、相変わらず面倒見の良さを発揮されています。
また、音楽の時間は全くといってよいほど長々とした訴えやトラブルが見られないのは、
Bさんとの関係などを経て「良いコミュニケーション」を学習したことや、
音楽が「趣味」で、それを楽しんでいる間は病気の面ではなく健康的な面が前面に出ているのではないかと思います。
検討A
KJ法による検討
KJ法(川喜田二郎法):
ブレーンストーミングによる創造的問題解決技法
  カード作り
 →グループ編成
 →空間配置
 →図解
 →文章化 の手順をとる
検討の2つ目はKJ法です。
音楽療法で見られた効果について思うことをカードに1枚ずつ書き出してみました。ここで約150のアイデアや所見が出ました。

スライドは、情報収集したカードを模造紙に並べた段階です。
KJ法 グループ分け
〜空間配置の段階〜
次に、内容の近いもの同士でグループ分けしてタイトルを付けてみました。
関連性のあるもの同士を並べ、空間配置しました。
KJ法 〜図解の段階〜
このスライドは空間配置からさらに大まかにグループを分け、図解にした段階です。
結果@
KJ法からみた期待される治療的効果
結果@ KJ法からみた期待される治療的効果
KJ法で挙げられた効果(一部)
*正の効果
・季節にちなんだ曲を唄うことで季節感を感じることができる
・自分のリクエストした曲を歌えることが楽しみになる
・曲にまつわるエピソードや聴いていた時代背景、置かれていた状況やそのときの感情などを思い出し、懐かしむことができる
・昔から知っている音楽には反応しやすい
・人前で歌うことで自信がつき、カラオケでも歌えるようになった
・無為・自閉的な患者さんでも、患者さんに向かってor一緒に歌うと、笑顔や涙目になり、表情・感情が少し豊かになる
・ほとんど緘黙状態の患者さんが歌詞カードをみながら微かに口許を動かして歌っていた
・不安、沈鬱、恐怖など不快の感情表現がほとんどみられない
・場の提供をすれば、患者さんのペースで場の雰囲気を作り、時間を過ごすことができる
・体一つで参加できるので対象を選ばない(精神・知的・身体障害、痴呆、字が読めない人etc)

*負の効果
・楽譜をファイリングできなかったことで自信を失くし、しばらく参加を中断された方がいた
・対象がバラバラなので大多数のレベルに合わせると、「幼稚」と言って参加したがらない人もいる
・形として残りにくいので、頓挫せず短期間で完成する代わりに、フィードバックを工夫しないと深い満足感は味わいにくい
・躁状態の人の独壇場になってしまったときや陽性症状の激しい患者さんが騒いだとき、他の患者さんが迷惑そうにしていた
ただいまのKJ法で挙げられた効果について、一部を箇条書きにしたものです。
様々なアイデアや所見の中には、正の効果だけではなく、負の効果もありました。
KJ法で挙げられた
客観的に評価しやすい14項目
心情 カタルシス
自信
回想
達成感
感情表出
身体 リズム
笑顔
活性化
社会生活 相手の立場に立つ
活発な発言
人との交流
個人生活 楽しみ・興味・関心
生活のハリ
趣味
正の効果の中から客観的に評価しやすい項目をピックアップすると14項目ありました。
この14項目は、大まかにみて「心情」「身体」「社会生活」「個人生活」の4グループに分かれていました。14項目の詳しい説明は後ほど述べたいと思います。
結果A
ケースビネー検討からみた治療的効果の頻度

結果@「客観的に評価しやすい14項目」
          ×
検討@ケースビネーをもとに194名評価
結果A ケースビネー検討からみた治療的効果の頻度
結果@で得られた14項目について、ケースビネーをもとに194名それぞれを演者が評価しました。

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こちらがその結果です。
各項目毎に効果がみられた人数をバブルチャートというグラフで表現してみました。
4グループを縦軸と横軸に並べ、14項目を配置しました。
円の面積は効果の見られた人数、つまり頻度を示しています。人数の多い順に軸の中心から並べたので、中心部の大きなバブル群は、よく客観的に観察されることが多く、音楽療法によって得られやすい効果と考えられます。
端に位置している小さなバブル群は、観察されることこそ少ないですが、レベルの高い、つまり高度な治療効果と言えそうで、これらの知見は、今後の音楽療法の研究に興味を抱かせる結果ではないでしょうか。
次に14項目について具体例を挙げながら説明したいと思います。
まず個人生活の軸です。
大多数の方は音楽が好きだったり、病棟に貼りだしてあるプログラムを見て興味を持って来られます。これが132名。
生活のハリとは、それが週間スケジュールとして意識され、「明日は音楽がある」と楽しみにされるようになることで、これは63名いらっしゃいました。他にも病棟では年中室温が一定なのでなかなか季節を感じることができませんが、音楽で季節に応じた歌を歌う事で、「そろそろ茶摘みだなあ」といったことを感じることができます。
そして32名の方は、単にプログラムの一環という枠を超え、障害の有無とは関係なく趣味として楽しまれています。病棟に帰ってからも歌詞カードを見ながら練習したり、楽しんだりされています。
次は社会生活の軸です。
普段病棟でほとんど一人で居る人が、他の病棟の人との関わりを持ち、同じ歌手が好きといった共通の話などで盛り上がったり、肩もみや手遊びを通して、手のぬくもり、手の大きさを感じます。これらの人との交流を通して、思いやりや優しさ、強さなどを感じることができた人が75名。
活発な発言というのは、みんなの前で、美空ひばりや石原裕二郎について、人気があったこと、どんな曲を歌っていたかなど得意げに話してくれることです。また茶摘みを歌う前には、茶摘みを知らない世代の私達に「お茶を収穫してから商品になるまで」を口々に話してくれた事もありました。これが34名。
歌体操の見本を慣れないスタッフが恥ずかしそうにしていると「私が一緒にしましょうか?」と思いやってくれたり、リーダーになることで、スタッフと患者さん両方の立場になって、みんなが好きそうな曲を選ぶなど、相手の立場に立って考えて行動することができた人は18名いらしゃいました。
次は心情の軸です。
秋桜の曲を聴いて、妹の結婚式を思い出し「きれいやったもんね」と感動のあまり涙を流したり、赤とんぼの曲で家に置いて来ている生後数ヶ月の子どものことを思い出して泣いていたなど感情表出が見られた人が85名。
病棟では共同生活なので大きな声ではなかなか歌えませんが、音楽に来るとマイクを持ったり、大きな声で歌ったりすることができます。先ほど聞いて頂いた「夏の思い出」を二部合唱したときは、合唱する楽しさ、ハーモニーの美しさに感動を味わうことができました。歌い終わってから「100満点中何点ですか?」と聞くと「100点!!」と満足されていたようでした。このように、達成感を味わうことができた人が53名。
ビートルズの曲を聴いて、自分の若い頃を思い出し、ヘアスタイル、ベルボトムのジーンズの話を陽気にしてくれるなど昔を懐かしんで回想する人は44名。
音楽に参加し始めた頃は、人前で発言したり、歌を歌ったりすることが無かった人が、ハンドベルの音を一音担当する事で役割責任を持つことができ、自信につながったり、リーダーをする事で自信を持って発言できるようになった人が32名。
病棟では訴えが多かったり、不機嫌だった人が、音楽で歌を歌った後に「ああすっきりした」と満足するなど、悲しさ、苦しさ、みじめさを一時的にでも忘れることができるなどカタルシス効果があった人が31名いらっしゃいました。
次は身体の軸です。
陰性症状の強い方でも、音楽に合わせて楽器を振ったり体を揺らしたりされる方は94名いらっしゃいます。
無表情にリズムを取る方もいれば、楽しい曲、思い入れのある曲に触れ、笑顔がほころぶ方も85名います。自分の体験や思い出話をしたあと歌うときは、笑顔がより豊かになります。
更に、25名の方は音楽によって身体表現が活発になり、参加することでエネルギーを得ているように見えます。
先ほどケースビネーでご紹介したAさんは、14項目のうち11項目に該当しました。全体の平均点が4.13点なので高得点と言えます。
考察とまとめ
考察とまとめ

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ただいまのバブルチャートを図式化し、「音楽療法に期待される治療的効果」としてこのような仮説を作ってみました。
横軸の「個人生活」と「社会生活」はいわば「生活の軸」と考え、
縦軸の「心情」と「身体」を一つの軸とすれば、「心―体」のいわば「生命の軸」と考えられます。
これはあくまでも、概念図ですが、音楽療法の効果の広がりを想像することができるのに好都合だと考えました。
音楽療法の定義
音楽のもつ生理的、心理的、社会的働きを用いて、心身の障害の回復、機能の維持改善、生活の質の向上、行動の変容などに向けて、音楽を 意図的、計画的に使用すること
日本音楽療法学会
私達は、音楽療法場面の変化のみならず、病棟生活における行動の変容にも着目してきました。音楽療法のプログラムを個々の患者さんに配布したり、活動の様子をニュースレターとして病棟に貼りだすなど、患者さんが音楽への興味関心を抱いて貰うように働きかけをしています。
その結果、音楽療法場面病棟生活場面の二つの場面での行動の変容を伺うことができております。
当院でみられた生活の質の向上・行動の変容については日本音楽療法学会の定義にも示されています。
精神科における音楽療法
「音楽は多くの人にとってまず楽しい体験である。定期的に楽しみな時間が保証されているということは、特に長期の入院患者にとってはそれだけでも大切な事である。
 ただ歌を歌うのではなく、歌を歌うという活動を利用して、その中で表現する、選択・決定する、ルールに従う、他の人の意見や希望を尊重する、時間や場を共有する、会話を楽しむ、好きな音楽に没頭する事で気分転換を図ったり発散をするなど、いろいろな目標が可能になる」
加藤美知子『音楽療法入門』春秋社(1998)
また音楽療法家の加藤は、著書の中で次のように述べています。
「音楽は多くの人にとってまず楽しい体験である。定期的に楽しみな時間が保証されているということは、特に長期の入院患者にとってはそれだけでも大切な事である。ただ歌を歌うのではなく、歌を歌うという活動を利用して、その中で表現する、選択・決定する、ルールに従う、他の人の意見や希望を尊重する、時間や場を共有する、会話を楽しむ、好きな音楽に没頭する事で気分転換を図ったり発散をするなど、いろいろな目標が可能になる」

今回発表に際し、音楽療法の効果について深く振り返ってみたところ、学会の定義や多くの音楽療法家の所見を実践的に確かめることができ、実感として治療的な効果があると確信しております。
音楽療法と社会復帰

参加する人に多面的・全人的に働きかける
内面や生活を豊かにすることでQOLを向上
      ↑
社会復帰・社会参加に寄与できる
最後に今回のテーマである「芸術療法と社会復帰」についてですが、精神科医療における音楽療法では、今まで述べてきたように、参加する人に多面的に、かつ、病んでいる人間の全体像をとらえて全人的に働きかけ、内面や生活を豊かにすることにより、QOLの向上が見られ、社会復帰・社会参加に寄与していると思います。

ご静聴有り難うございました。